公開講座 Public Lecture Series
本学は、地域包括ケアシステムの一部を担うという観点から、
地域の人々の健康の保持増進に役立つ場と知識を提供するために、
市民公開講座を実施しています。
2025年11月8日(土)
『令和時代の子育て・孫育て・他孫(たまご)育て ~家族で、地域で広げよう、孫育ての"和"~』
| 講 師 | NPO法人孫育て・ニッポン 理事長 ぼうだ あきこさん |
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秋の恒例となっている公開講座、本年度は初めての学外開催です。川崎市役所本庁舎の会議室をお借りして、広く市民の方々に参加いただきました。講師は、NPO法人孫育て・ニッポンの理事長である、ぼうだあきこさん。NPO法人孫育て・ニッポンの使命は、子育ての孤立化が問題となる中、祖父母の力を生かして子どもたちが健やかに育つ社会をつくること。ぼうださんは、子育て中の親と祖父母のよりよい関係構築や、地域の子どもと大人の関係づくりなどをテーマに講演活動をされています。
講演の冒頭でぼうださんは、参加者がどんなバックグラウンドの方々なのか問いかけました。特に低年齢のお孫さんを持つと挙手された方が多く、子育てサポートをしたいと意欲の高い方の参加が目立ちました。
これまで多くの祖父母とパパ・ママの関係を見てきた中で、「立場のスライド」がうまくいかない家庭では、関係がぎくしゃくしてしまうことが多いと、ぼうださんは指摘します。子育ての方針を決めるのはパパ・ママであるにもかかわらず、祖父母は自分の子育て経験をもとに、口を出しすぎてしまうことがあります。パパ・ママが祖父母の経済力に頼りすぎて、後々トラブルにつながることもあります。祖父母は「育てる人」から「見守る人」に、パパ・ママは「育てられた人」から「育てる人」に、意識的に立場をスライドさせることが大切です。
パパ・ママと祖父母、6人の価値観が全て一致することは奇跡。何をやってほしいか、やりたいか、家族の中で伝え合うことが重要です。特に祖父母は、やってほしくないことを尋ねて把握すること、そして自分たちがやりたいことを伝えることがおすすめとのこと。海外の留学生との異文化交流のつもりでいれば、意見や価値観の違いも「受け入れよう」と思えるはず。ぶつかったらその都度話し合って関係を築いていこうというお話は、当事者の身に染みるアドバイスです。
祖父母の子育てサポートにおいてしばしば問題になることに、昔の常識が古くなっていることがあります。世代間ギャップを自覚できる「イマドキの子育て・孫育てクイズ」への挑戦、そして、参加者一人一人が、昔と今とで変わったところを付箋に書き出してみるエクササイズが行われました。さらに、この書き出したものをもとに、参加者が2〜3人のグループで話し合う時間を設けたところ、この日初めて会った方同士であるにもかかわらず、ディスカッションの始まりから大盛り上がり。子育てサポート、孫との関係性は、すぐに打ち解けられる話題のようです。
今と昔の子育てのギャップについてのお話に続いて「孫育て10か条」とパパ・ママ向けの「祖父母とのおつきあい10か条」が紹介されます。「孫育て10か条」においては「とがめるより、補う」「他の子、親と比べない」が特に大切だとぼうださんは言います。たとえば、「パパ・ママがスマホばかり見ている」という批判があります。それに対し「子どもがかわいそう」ととがめても、子どもにとっていいことはありません。祖父母が孫と遊ぶときには足りないところを補うつもりで、スマホなしで目一杯遊ぶことがおすすめだそうです。
講演後半では、現在の子育てのしんどさが語られました。一人っ子が増えたことで一人っ子同士の結婚も増え、生まれた子どもに、おじ、おば、いとこがいないケースが増加しています。親族が縮小し、親や先生以外の大人と接する機会が減る現状に、ぼうださんは、血縁のない他人の孫=「他孫(たまご)」として関係をつくることで、子どもたちの社会性育成に役立てることを提唱します。また、物価高で共働きでも生活が楽にならず、男女ともに多くの役割を果たすことが求められる現状は、パパ・ママ達を疲弊させています。「子どもは泣くもの、泣くのが仕事」が死語となり、子どもの泣き声が迷惑だとされることもある世の中で、子どもを外に連れ出せず、引きこもって孤立する事例もあります。地域の大人が子育て家庭に手を差し伸べることが、子どもを産んでよかったと思える社会づくりにもつながるのかもしれません。
さらに、そんなサポートを望む方々へ、ぼうださんはコミュニケーションのコツを伝授してくれました。子どものやることを「上手だね」と褒めるのは、上手くいっている時はいいのですが、失敗したら褒めてもらえず、チャレンジする心が育まれません。一生懸命やっているその過程を認めるコミュニケーションがおすすめです。とはいえ親はどうしても上達や成果を望んでしまうもの。他人だからこそ、無条件に「頑張った」ことを自然に認められるといいます。
最後に、参加者からの質問にぼうださんがお答えくださり、講演を締め括りました。「孫を叱れない。これでよいでしょうか」という質問には、命の危険があるとき、他人に迷惑をかける行為は叱るべき。でも小さい子は意外と聞き取れないので「ここは走らない、歩くんだよ」など短い言葉で。異文化交流なのだから、「パパ・ママがよくても、じじ・ばばはダメ」ということでもよいそうです。ただし、パパママが大切にしていることやしつけに当たるようなこと、例えば『ご飯を食べる時には「いただきます」を言う』などは、子どもが混乱しないようにパパママと共通にしておくとよいでしょう。
ぼうださんのお話は、孫育てに迷いがある方だけでなく、地域の子育てを支えたい方や、子育て・地域づくりに関心のある方にとっても、多くの気づきとヒントにあふれていました。今後も、地域の皆さまの関心に応えるテーマで公開講座を企画していきたいと考えています。
【祖父母もパパ・ママも、孤立しない環境を】
私は以前、育児雑誌の編集をしていました。「祖父母たちに昔の常識でアドバイスされるのが嫌」という読者の声を受けて、祖父母たちにインタビューしてみると、祖父母側には「今の子育てを学べる場所がない」という悩みがありました。そんな経験をもとに、学ぶ場をつくろうと立ち上げたのが「NPO法人
孫育て・ニッポン」です。少子化の今、職場や友人同士でも孫の話題は出しにくくなっています。本日のような講演会は、誰かに相談したり愚痴をこぼしたりする場所がない祖父母にとって、知識を得ると同時に、共通の話題で話せる方と出会う場にもなるようです。
また、私が現在力を入れているのが、子育て家庭が地域の方々と関わる場所として利用できる「産後ママパパカフェ」プロジェクトです。血縁関係のように重くなく、月に1〜2回顔を合わせたり、散歩のときに声を掛けたりといった緩やかな関係は、人に幸せをもたらすものです。本日お話しした「他孫」もその一例です。災害のとき、高齢者や障がい者は行政がケアする対象になりますが、妊婦や乳児にはその制度がありません。子育て家庭が地域で関係を築きやすい環境をつくることは災害時の助けにもなるのです。このプロジェクトを日本中に広めることを目標にしています。
【参加者の声】
当日は、20代から70代までの幅広い世代の方にご参加いただきました。
参加者へのアンケートでは、「講座の内容は期待どおりだったか」の質問に対して9割以上の方が「期待どおりだった」もしくは「やや期待どおりだった」と回答されていました。
アンケートの自由記述欄でご回答いただいたご意見・ご感想を抜粋してご紹介いたします。
<皆様からのご意見・ご感想>
- 先生のお話に引き込まれ、時間があっという間でした。孫育てだけでなく、子(パパ・ママ)の生活、経済の自立がとても大切なことだと改めて感じました。心に響きました。
- 若い世代、世の中の変化に気が付くきっかけをいただきました。
- 興味深い内容で、ぼうだ先生の講演に引き込まれました。
- 目から鱗の内容がたくさんあり、すばらしい内容でした。
- 社会全体での子育ての大切さについて具体的にお話くださり、ありがとうございました。

