公開講座 Public Lecture Series

本学は、地域包括ケアシステムの一部を担うという観点から、
地域の人々の健康の保持増進に役立つ場と知識を提供するために、
市民公開講座を実施しています。

2024年11月10日(日)
『難病になって分かった「身近な幸せ」と「素敵な言葉」~多発性硬化症患者が歌い語る~』

講 師 癒シンガー Keikoさん

本年度の公開講座では、多発性硬化症という難病の患者でありながら、プロのシンガーとしてご活躍されている癒シンガー Keikoさんを講師としてお迎えしました。多発性硬化症は、脳、脊髄、視神経の炎症により、感覚障害、運動障害、平衡障害などの多様な症状を引き起こす病気です。Keikoさんは現在も病気を抱えながら、歌や講演を通して、多発性硬化症の啓蒙活動に精力的に取り組まれています。
本公開講座では、第一部で『難病になって分かった「身近な幸せ」と「素敵な言葉」~多発性硬化症患者が歌い語る~』をテーマにご講演いただき、第二部でKeikoさんが愛用されている電動車椅子(WHILL)の乗車体験を行いました。

「私は車椅子に乗っていますが、立つことができます。これを見てどう思われますか?」
第一部の講演は、Keikoさんの問いかけから始まりました。多発性硬化症の影響で体が疲れやすく、疲れてしまうと集中力、記憶力といった脳機能も落ちてしまう。それを避けるために車椅子を使用している。Keikoさんが語られる「目に見えない障害」の存在を、参加者の皆さまは驚きをもって受け止めていらっしゃる様子でした。

講演は小説風の「ケイコ物語」のスライドに沿って進んでいきます。歌手になるという夢を叶え、活動されていたKeikoさんを病魔が襲ったのは2012年。突然まっすぐ歩けなくなってしまいます。当時は病名がわからず後遺症にも悩まされていましたが、2014年に再発したことで原因が「多発性硬化症」と判明するのです。今度は黒目が斜視になってしまいます。視界がぼやけ、何も見えない状態で、「もう元の体には戻らないかもしれない」「歌をあきらめなくてはいけないかもしれない」と不安で胸が押しつぶされる思いだったといいます。
その後、再発予防と進行抑制の治療を続けるものの、体は疲れやすく長時間立っていられないまま。「目に見えない障害」との向き合い方が分からず、先が見えない状態でした。そんなKeikoさんを救ったのは周囲の方々の支えでした。知人の方の「立っていられないなら椅子に座って歌えばいい」というアドバイスや、椅子に座って歌うことを受け入れてくださる方々の存在により、歌手活動を再開することができたのです。この出来事は生きる希望であり、一生忘れられないものと、Keikoさんは力強くお話しされていました。
病気の経験やお父様の死、結婚といった経験を通して、今日と同じ明日が来ることの幸せや、気持ちを言葉にして伝えることの大切さを深く感じられるようになったというKeikoさん。大切なものはすぐ近くにあるのに気が付かないことが多い。でも、気付いたときにはピカピカと宝物のように輝いて見える。講演の締めくくりとして、当たり前の日常に目を向ける大切さをお話しくださいました。
講演の中では、ご自身の経験とリンクさせるように、オリジナル曲の「世界で一番素敵な言葉」を含む3曲をご披露いただきました。「世界で一番素敵な言葉」は、安達充氏が作詞・作曲した「名前」をテーマにした1曲。名前とは生まれて最初に贈られるプレゼント。人生で最も多く目にし耳にし口にする言葉です。この曲は名前が身近で素敵な宝物だということを気づかせてくれるオリジナル作品です。参加者の方々は、Keikoさんの語りかけるような温かい歌声に聴き入っていらっしゃいました。

講演後の質疑応答では、車椅子ユーザーの方のサポートをされている方からのご質問がありました。ご自身がサポートされている方が車椅子から立ち上がったときに、周囲の方に驚かれてしまった、車椅子ユーザーとしてそのような状況をどう考えているかという内容を受け、「車椅子は足が悪い人のものというのが一般的な認識で、立てる車椅子ユーザーがいることはあまり知られていない」「驚く方も悪気があるわけではなく、ただ知らないだけ」と話すKeikoさん。さらに、「だからこそ、まずは第一歩として今日この場にいる皆さんが、立てる車椅子ユーザーもいるということをお友達にでもお話ししてみてほしい」と会場に呼びかけられると、参加者の方々から拍手が起きていました。

第二部は場所を体育館に移し、電動車椅子の乗車体験を行いました。最初はKeikoさんから電動車椅子の操作方法についてレクチャーしていただきます。手元にあるレバーを倒すことで前後に進んだり回転したりすることができます。

レクチャーの後は希望者の方が順番に電動車椅子に乗り、直進、方向転換を行います。驚くほどスムーズに進み、回転する電動車椅子に、参加者の方は喜びや驚きの声をあげていらっしゃいました

本学の市民公開講座は本講座で3回目の開催となりますが、今回の講座は参加者の皆さまに、障害を抱えて生活されている方の思いに触れていただく貴重な機会となりました。

【公開講座を終えて Keikoさん】

多発性硬化症の症状は、足のしびれや脳機能の低下など、目に見えないものが多いため、病気のことを自分から周囲の方に伝えなければいけません。しかし実際には、自分のデメリットになってしまうという心配や、まだ認知が広がっておらず、個々に症状が違う病気の説明をする難しさにより、病気のことを周囲に伝えられない方がたくさんいらっしゃいます。また、そのことが原因で無理をしてしまい、病気が悪化してしまうケースもあります。私が病名を公表し啓蒙活動を行うことで多発性硬化症の認知が広がり、根治につながってほしいと願っています。
私の活動は病気の経験を通して気づいた、毎日が奇跡だという思いや、小さなことでも幸せに感じる気持ちを歌に乗せて伝えています。ただの講演ではなく、車いすに乗って歌っているからこそ参加者の方の記憶に残ったり、歌で伝えるからこそメッセージを受け入れやすくなったりすることがあるのではないかと思っています。参加者の皆さまには、今回の講演会を通して、「あなたは一人じゃない」というメッセージを感じていただけていたらうれしく思います。本当にありがとうございました。

【参加者の声】

当日は、10代から80代の方まで、幅広い世代の方にご参加いただきました。 参加者のアンケートでは、「講座の内容は期待通りだったか」の質問に対して9割以上の方が「期待通りだった」もしくは「概ね期待通りだった」と回答されていました。
アンケートの自由記述欄でご回答いただいたご意見・ご感想を抜粋してご紹介いたします。

<皆様からのご意見・ご感想>

  • Keikoさんの歌声はとても癒され、ご自身の経験から得た大切なことや素敵な言葉、想いを聴くことができ、とても良い講座でした。また歌声を聴きたいです。
  • 障害に限らず、目には見えない生きづらさは周りの方が知ることにより、少し辛さが減る気がしました。
  • 素敵な講演でした。自分の名前が大好きになるきっかけになるので、子どもや友達にも(オリジナル曲の「世界で一番素敵な言葉」を)教えたいと思います。
  • 自分の名前をこのように考えたことはありませんでした。もっと自分の名前に責任と愛情を持ちたいと思いました。
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